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競技プログラミング で培った能力をデリバティブクオンツなどの業務でフル活用
2020.11.30
相澤 比 Tasuku AIZAWA
理学系研究科物理学専攻/レーティング:黄色/業種:金融/職種:クオンツ/野村證券株式会社
数理的な能力を生かして働きたいという思いからクオンツ職にエントリー。未経験だった金融工学のモデリングやチーム開発に取り組み、入社3年目には東京の為替デリバティブトレーディング関連の分析サポートや開発業務の主担当に。現在はグローバルマーケッツデジタルストラテジー室の業務と兼務している。
競技プログラミングと私
入社後にパズル的なおもしろさに惹かれて競プロに熱中
競技プログラミングとの出会い
私が競技プログラミングに取り組みはじめたのは入社してからのことです。後輩社員がプログラミング言語に習熟するために競プロに取り組んでいると聞き、AtCoderの過去問題を解いてみたのがはじまりです。AtCoderのプログラミングコンテストは時間が短く社会人でも取り組みやすい上に、実業務で使用しているC++が広く使われているのでコードを素早く組む訓練としては最適でした。それに加えて各種アルゴリズムを学びながら計算量を改善していくパズル的なおもしろさにも惹かれていきました。学生時代は簡単なコードを書く程度しかしていなかったので、競プロは自分にとってプログラミングやアルゴリズムを学ぶ絶好の機会になりましたね 。それに、AtCoderの問題は斬新なひらめきが求められるものが多く、クリエイティブな感性を養うのにも役立っているようにも感じています。
仕事観
大学院では物理学を専攻していたので、就職先でも何かしら数理的な能力を生かしたいと考えていました。その点、数理の専門家であるクオンツ職には物理学、数学、情報科学専攻の出身者が多いと聞き、さまざまな金融機関にエントリー。実際に話を聞くうちに、数学力、プログラミング力、実ビジネスへの貢献がバランスよく求められるデリバティブクオンツ(金融派生商品の評価モデルを開発・実装する数理分析担当者)の仕事内容に魅力を感じるようになっていきました。ちなみに、野村證券への入社は、東京の開発チームが欧米を中心とした海外拠点のクオンツと密に協働していること、面談したクオンツ社員の皆さんの人柄やチームの雰囲気が良かったことが決め手となりました。
仕事のリアル
プレッシャーと戦いながら、クオンツとしての仕事を楽しむ
仕事内容
現在はクオンツ開発課とグローバルマーケッツデジタルストラテジー室の業務を兼務しています。まずクオンツ開発課では金融派生商品の価格やリスクを計算する数値計算ライブラリや社内システムの開発を手掛けています。具体的にはアジャイル開発を採用し、トレーダーやストラクチャラー、セールスの方々から新商品開発や機能改善の要望を受け、開発要件に落とし込み、数値計算の精度や速度を検証しながら主にC++で実装していく流れとなっています。もう一方のグローバルマーケッツデジタルストラテジー室ではグローバルマーケッツ部門におけるデジタルトランスフォーメーションを推進したり、ロンドンやニューヨークといった海外拠点チームと協働し、データ・数理モデルに関するグローバルプロジェクト(トレーディング関連)や、その成果を東京へ導入したりしています。
魅力とギャップ
自分が開発したシステムやモデルがビジネスの最前線であるトレーディング部署で使用されることにやりがいを感じます。時間的な制約にプレッシャーを感じることもありますが、必要な知識を習得し、試行錯誤していくプロセスはやはり楽しいですね。クオンツ関係の部署のメンバーがとても勉強熱心なこともモチベーションの一つになっています。実際、グローバルのクオンツチームでは定期的に金融工学、確率統計、プログラミング言語などに関連する勉強会や社内セミナーが開かれており、リージョン問わず広く学習・共有することができます。とはいえ私の場合、入社時点では金融工学に関する知識がほとんどなかったので、右も左も分からないような状態でした。が、先輩社員が若手の面倒をみてくれるインストラクター制度のおかげで、気軽に金融工学やその他の業務について相談することができましたし、その時々で成長の機会を与えてもらえたので、比較的早く仕事や職場に馴染めたように思います。
1日のスケジュール
- 08:40
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出社、メールチェック。
- 09:00
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数値計算ライブラリのコーディング作業や数値計算結果の分析・テスト。
- 11:30
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昼休み。弁当を買ってきて勉強しながら食べたり、チームメンバーや同期とランチに出たり。
- 12:30
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引き続き開発業務。トレーディングデスクからモデル評価、システムに対する問い合わせがあれば適宜対応する。
- 16:00
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取引時間終了後の比較的余裕がある時間を見つけ、トレーダーとモデル分析結果や今後の開発方針について議論。
- 17:00
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ロンドンチームが出社してくる頃、進捗報告や開発方針の議論のためVCや電話でミーティング。
- 19:00
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退社。
仕事と競技プログラミング
競プロのおかげで複雑な業務もスピーディーにこなせるように
活かせる・求められるスキル
確率微分方程式で表される金融派生商品の評価モデルなどの数理的側面を理解した上で、それを解くための数値計算アルゴリズムを見いだし、実装するためのプログラミングスキルが求められます。もちろん、その際にはビジネスサイドと議論して開発要件を決めたり、モデルの承認を得るためにリスクマネジメント担当者と調整したりする必要があるので、金融工学の知識のほか、数理的側面を第三者にわかりやすく伝えるコミュニケーション能力も求められます。さらに、国内外の外国人社員と協働することも多いので、ある程度の英語力も必要です。先述した通り、開発案件のなかにはスピードを求められるものも多々ありますが、その際には競プロで培ってきた論理的思考力やより良い実装を調べて考え続ける姿勢、日常的に計算量を意識する感覚、C++への慣れなどを生かせているように思います。
今後の展望
グローバルマーケッツデジタルストラテジー室での業務を通して、より広い経験を積みたいと思っています。海外拠点の最先端の動きをいち早くキャッチすることができるので、フロー商品の価格付けモデリングやデータ活用を通じた価格評価のモデル改善などにも挑戦していきたいですね。もちろん、そのためにも日頃から興味がある技術分野については積極的に学び続ける姿勢を忘れないようにしたいと思います。また、これからはIT部門だけでなく、トレーダーの方々などもプログラミングを活用する時代になると思うので、その入口として競技プログラミングの魅力を社内に発信していければと思っています。